ヨガ哲学の小部屋〜相澤めぐみ先生

リラヨガ講師陣が毎回レッスンで話す小話の中から毎月一話を厳選してお伝えするこのコーナー。今回は毎週水曜8:00〜9:30のオープンクラスと金曜20:00〜21:30の入門クラスを担当する相澤恵先生の小話です。
今日もヨーガのお話からしていきます。今から2000年ほど前にインドで成立したとされる、『ヨーガ・スートラ』という経典があります。そこには、人々がより幸せに、豊かに生きるための人生の知恵が記されているのですが、今日はこんな教えをご紹介します。
「否定的想念によって撹乱された時は、反対の肯定的想念が捻想されるべきである。これがプラティーパクシャ・バーヴァナである。」
“プラティパクシャ”は “反対の想念 ”、“バーヴァナ”は “念想する”という意味で、ひとことで言えば「ポジティブシンキングしましょう」という意味です。
この世界に存在する全ての物事には必ず否定的、ネガティブな側面と肯定的、ポジティブな側面が存在して、私たちはどちらを見るか選ぶことができます。だから、否定的な側面にばかり目がいって撹乱されたとき、苦しいときは、反対の肯定的なこと、ポジティブなことを考えましょう、という意味です。
たとえば、仮に私たちが70-80歳ぐらいだとします。電車で立っていたところ、若者に席を譲られたとします。そんなとき、「けっ!年寄り扱いしやがって。心外だな」とネガティブに捉えることもできます。でも「席を譲ってくれるなんて優しいな。ありがとう。」とポジティブに捉え、お礼を伝えることもできますよね。そのほうが自分も、席を譲ってくれた若者も、幸せを感じられるはずです。
このように出来事そのものはネガティブでもポジティブでもなくニュートラルに存在していて、どう捉えるかは、完全に私たちの自由です。そうであれば、自分が幸せになれるようなポジティブな解釈を選んだほうが良いですよね。そしてその方が周りの方にもポジティブなエネルギーをシェアできるはずです。
私の話をします。私は仕事で週2-3回ほど表参道に行くのですが、数ヶ月前に駅前のメインの交差点沿いに、新しいお店ができました。調べたところ、どうやら海外で人気のイスラエル発スキンケアブランドのお店のようで、何やらラグジュアリーな空気が漂っていました。開店してからというもの、いつもお店の前で店員さんが化粧品のサンプルを道ゆく人々に配っていました。雨の日も風の日も。当然もらってくれる人、くれない人がいるので、大変な作業のはずです。私は「きっとノルマがあるのだろうな、もらったほうが店員さんが助かるかな」と思いつつも「とはいえ買う気はないから、無駄な期待をさせてしまうほうが申し訳ないか」と考え、いつも心の中で応援しながら、サンプルを差し出されないような距離を保ちその店の前を通りすぎていました。
ある日いつものようにその店の前を歩くとき、私は考え事をしていたので距離を保つのを忘れ、店員さんの近くを通っていました。そしてサンプルを差し出されました。私は一瞬迷いつつも「差し出されたものを拒否するのは違うな、これも何かのご縁だし」と、受け取りました。すると案の定ものすごい営業が始まり、1分で終わるから店内で商品を試すよう熱心に誘われました。私は迷いましたが、営業されるということはビジネス的に勉強になるかと思いました。とはいえ無駄に期待値を高めてがっかりさせたくないので「私はおそらく何も買わないし、本当に1分で終わるなら」と、店内に入りました。
接客してくださったのはヴァンさんというイスラエル人の女性の方でした。同い年で明るくて素敵な方で、英語だったこともあり堅い敬語もなく、かなりカジュアルに会話していました。
肌の話をしていたのですが、そもそも私の美容に対する意識は、高くないのです。シミやシワも生きた勲章だし私はあえて抗わなくて良いかな、という考えで、あまりスキンケアにお金を使いませんでした。(もちろん向き合って努力されている方も本当に素敵です)
なので私のスキンケアは、いつもオンラインストアのセールのときに買う数十枚1,000円ほどの安いパックをして、2,000円ぐらいのクリームを塗り、終わりです。自分の肌がものすごく美しいとは思っていませんが、それも個性だしまぁいいかな、ぐらいの認識でした。
ヴァンさんに会話の中で、「あなたの肌はお世辞でなく本当に綺麗だけど、対策は若いうちにしたほうが絶対後悔しない、と私はお母さんから言われ続けている」「あなた、左側のほうれい線の方が若干濃いの、気づいてた?」と言われました。私は気づいていませんでしたが、確かに言われてみればそうでした。「あなた鏡あんまり見ないでしょ」「おすすめのものがある」と言われ、ものすごくラグジュアリーな注射器のような容器に入った、「ほうれい線専用クリーム」なるものを出されました。「ほうれい線専用とは…?」と思いましたが、塗ったら2分でシワが薄くなるというのです。半信半疑で実際に塗ってもらいました。2分の待ち時間におしゃべりしていて「どうしてこのお仕事をしようと思ったの?」と聞いてみました。するとヴァンさんは「私はずっと目の下に大きなクマがあってコンプレックスで、鏡を見るのが嫌いだった。今もまだ少し残っているけど、スキンケアを毎日していたら変わっていくのがすごく嬉しくて、少しずつ自分に自信が持てた。だからこの喜びをシェアしたいんだ」と答えてくれました。そのときの目がすごくキラキラしていて、営業トークかもしれないけれど、この方は本当に心から思って言っているんだろうなと感じました。
そして2分が経過し、たしかにシワが若干薄くなっていました。価格を聞いたところ….なんと、「6万5000円」…..たっか!!私は普段2,000円のクリームを顔全体に塗る女です。ほうれい線にしか使えずにその価格は私にとっては高すぎます。なので「このクリームが素晴らしいことは分かった。でも私にとっては高額です、ごめんなさい。紹介ありがとう。」と丁重にハッキリとお断りしました。しかしヴァンさんはめげずに他の製品をいろいろと説明してくれました。このお店の中では一番お手頃なもので、フェイスクリームとマッサージバーのセットで2万円ほどのものがありました。
私の心は少しずつ揺れ始め、二人の私が頭の中に現れました。「買うべきでない」という私と「買ったら良いじゃん!」という私です。
前者は「丸め込まれてはいけない」という感覚でした。私は昔から「めぐは素直に人のことを信じすぎだから、将来絶対高い壺とか買わされるから気をつけて」と何十回もいろいろな友達に言われていました。接客中、心理学的な営業テクニックが複数使われていることも頭で理解していたので、「営業に負けてまんまと高いもの買わされるのは良くない」という捉え方でした。
一方、もう一人の「買ったら良いじゃん!」という私は、もう少し純粋な感覚でした。ヴァンさんがキラキラした目で語ってくれたことが嬉しかったし、何より「あなた鏡あんまり見ないでしょ」と言われたことで大きな気付きがありました。「たしかに言われたとおり、私は毎日鏡を眺めていただけで、自分の顔にしっかりと向き合ってなかったんだな。だから自分の顔を好きだと感じたことがなかったのか」「ダメなところを探すという意味ではなく、今の肌を受け入れたうえで、さらに好きになれるようにスキンケアを通じて努力することは、素晴らしいことかもしれない。」と気づきました。
揺れ動いた末…..私は2万円のフェイスクリームセットを買いました!普段のクリームの10倍、自分史上一番高いスキンケアの買い物でした。でも、とても清々しい気持ちでした。そして思ったことをちゃんと伝えました。
「私は今フェイスクリームを買ったけど、それを通じて、自分を愛する機会をもらった。毎朝毎晩、自分のことを大事にするきっかけがあるということを、20年以上生きてきてずっと見逃していた。だからそれに気づかせてくれて本当にありがとう。これからの人生はスキンケアするたびにそれを思い出して、毎日がもっとワクワク楽しくなる!」と、目を見て、伝えました。
するとヴァンさんは、泣いて喜んでくれました。「今までで一番良いレビューだ」と、上司(陽気なイスラエル人の男性)を呼んでくれ、「もう一度同じことを言って!」と言われたので伝えました。そうしたらその方も涙ぐんでくれて、みんなでハグをして、高級な目元専用クリームをおまけしてくれました。そして「まためぐに会いたいからいつでもおしゃべりしに来てね!」と笑顔で見送ってくれました。
その後ヴァンさんとは友達になり、私はスキンケアをするのが好きになりました。今まではどちらかというと面倒でサボることもありましたが、毎朝毎晩購入したクリームを使うたびに、ヴァンさんとの温かい時間を思い出し、しっかりと鏡を見て日々の変化を慈しみ、自分を前より少し大切にできている感覚に満たされています。
もちろん客観的に見たら「営業されて高額商品を買わされた」とネガティブに解釈する方が多いのは重々承知です。でも私は、ポジティブな解釈を自ら選び感謝を伝え、温かい時間を共有できて心から良かったと、あれから数週間たった今も自信を持って言えます。
このように、この世界の捉え方は自由です。どんな出来事も自分の意志でポジティブに変えることができます。今日もレッスン中「きついな」と思ったら「筋肉が喜んでるな」と言ってみましょう!何か難しいアーサナがあったら「伸びしろしかないな」と言ってみましょう!皆さんでポジティブ変換ゲームを楽しみながら、輝く未来をつくりあげていきましょう!