今月の小話〜MIHO BROWN先生
リラヨガのインストラクターたちが毎回クラスで話すヨガ哲学の小話の中から厳選したものをお届けする「今月の小話」のコーナー。今回は毎週木曜19:30からのオープンクラスをリードするMIHO BROWN先生の小話をお届けします。
今から約2000年前に成立されたとされるヨーガの根本経典の一つに「バガヴァッド・ギーター」という経典があり、そこには人生をより豊かなものにしていくための様々な教えが記されています。その中に「自己のダルマの遂行は不完全でも良く遂行された他者のダルマに勝る」という一節があります。「ダルマ」とは日本語で「義務」と訳されます。義務というと仕事の義務、親としての義務、学生の義務など様々なものが思いつくかと思いますが、ここでは「それぞれの人生で自分にしかできない果たすべきつとめ」のことを意味します。私たちは一人一人この世で果たすべき務めを持っており、その務めは一人一人異なります。だから他人と自分を比べることなく、自分自身に与えられたダルマを、たとえ思うような結果が十分に手に入らずとも、しっかりと遂行していくことが後悔のない人生を手に入れる鍵になるのです。
たとえば学生時代を思い出してみれば、苦手な科目があった時、その苦手な科目から逃げたくなったことがあったかもしれません。確かに得意科目だけ勉強し続けることは簡単なことですが、苦手科目に正面から取り組むことで、得意科目をこなすだけでは身に付かない新しい知識や発想法を身につけ、自分自身の可能性を大きく成長させることができたはずです。このように、たとえうまくいかなくても、逃げ出すことなく自分自身が取り組むべきことに正面から向かい合い、それをまっとうすることができた時、私たちは生まれてきてよかったと心から思い、人生の喜びを噛み締めることができるのです。
私の話になりますが、私はミュージカルが大好きで、憧れのミュージカルを真似して仲良くしているダンサー仲間や後輩たちの前で好きな音楽にのせてその時の気分や浮かんだメッセージをダンスで表現したりします。例えばミュージカル作品「雨に唄えば」を真似て、雨の日も楽しく音に合わせて水たまりにわざとピシャッと足を入れたり、傘を肩の上に担いで持ってそれをくるくる回しながらステップを踏んだり、道行く人とすれ違う時邪魔にならないように傘をつぼめて通過しながら会釈をしたり、といった具合です。そして、いつか自分自身を幸せな気持ちにしてくれる憧れのミュージカルのような作品を自分のダンスジャンルも取り入れて作りたいと思っていました。
ある時、いつもレッスンをしているダンススタジオがダンスイベントを開催することになり、30分の枠を貰うことができました。「チャンスが来た!」と思いました。私の提案でダンススタジオでは前代未聞のダンスをメインにしたミュージカル作品を出させてもらうことになったのです。ダンス仲間や後輩たちもノリノリで手伝ってくれることになりました。作品にはポールダンス、JAZZダンス、HIP HOPダンス、TAPダンス、コンテンポラリーダンスと、それぞれのジャンルに長けた人、作品を作れる振付師を選出しましたが、ダンサー全員への声かけ、度重なるミーティング、予算の確認、衣装やリハーサルのスケジュール管理、チラシのデザインつくり、などやることが山積み。制作だけで手一杯になってしまい、肝心のストーリーつくり、それに基づいた振り付けつくりになかなか専念できなくなったりしました。そんな中、追い討ちをかけるようにショーを手伝ってくれる仲間から「次は何をしたらいいですか」と聞かれて益々混乱状態におちいる始末。
仕事を他人に振るのが下手で、一人で全てを抱えることになってしまい、これは私が本当にやるべきことなのか、やはり前代未聞の行為で無謀な事をしているのかもしれない。まだ今ならやることを変更して曲数も減らせると途中で何度も諦めそうになったり楽な方にいきかけました。しかし仲間や後輩たちが「みほさんイメージがあるのだからこれは形にしないともったいないです。しかもみほさんしかわからないから言ってくれないとわからないのでなんでも言ってください。」と背中を押してくれました。「確かに自分のことは自分にしかわからない。それを伝えなければ誰が伝えるんだ!」と思い直し、どんどん行動するようにしていきました。すると仲間たちは自分から仕事を見つけて次々と手伝ってくれるようになり、私の仕事の負担は大きく減り、なんとか本番を迎えることができました。
ショーが終わると、憧れだったミュージカルの名作には到底及びませんが、自分のイメージを形にする作品作りの大変さと面白さ、仲間やスタジオの協力の偉大さなど、それらを身をもって経験し学ぶことができて、その全てに感謝の気持ちでいっぱいになりました。これ以降エンターテイメントに対する興味、関心、情熱は更に深まり今も仕事として続けられる原動力となっています。そしてあの時苦楽を共にした仲間は一生の宝物です。心から幸せな気持ちになれた経験で、落ち込みそうになることがある時には今でも当時の気持ちを思い出して元気を出しています。
私たちは何か目標に向かっていく時、ついよくできている人と比べてしまったり、世の中でつくりあげられる良し悪しに左右されて簡単に諦めてしまうことがあるかもしれません。しかし、まるで目の前に立ちはだかるどんなに険しい山も、登ることに意味を見い出し頂上を目指して登り続けるアルピニストのように、人生という山道に差し出される困難な出来事に、人と比べず、世間の良し悪しに左右されない自分にしかできない尊い果たすべきつとめを果たすべく自分を信じて立ち向かってきいましょう、たとえ結果が不完全であったとしても、その先には後悔のない人生が待っているはずです。
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